第1 はじめに
これまで、広大地規定の沿革やトラブルが多発する理由、そして広大地に関し紛争当事者となった場合の留意点などについて書いてきましたが・・・・
前回は、広大地の原点である「適用3要件」について再度掘り下げてみました!
今回は広大地判定において避けては通れない「開発行為」について詳しく解説したいと思います。
訴訟で提出された「広大地に該当する土地を見落とした」と主張する相手方の意見書では、この開発行為や開発許可制度、開発指導要綱その他条例などについて充分に理解していないと思われる意見書・調査報告書も散見されます。
また・・・・・・
開発指導要綱や開発許可に関する技術基準などの法令を遵守すると、評価対象について開発道路を設けることは不可能であるにも関わらず、あたかも開発道路を設けた分割が法的に可能であると主張する意見書もあるのです!
広大地の適用に関して裁判に発展してしまった場合、例えば「広大地を適用せず相続税の申告業務を行った」と税理士先生が訴えられてしまったような場面においても、相手方の意見書を調査し、開発指導要綱やその他の開発許可に関する技術基準を精査することで相手方の主張の間違いを指摘することが充分に可能なのです。
最近、成功報酬により広大地適用について更正の請求を積極的に業とする不動産鑑定士がいます。非常に残念なことです・・・
いわゆる「結論ありき」な意見書や「言いがかり的」な調査報告書ほど、重要かつ基本的な部分が欠落している場合が多いので冷静な対応を心がけ、相手方の意見書を精査し、反論・反証することは充分に可能なのです。
第2 開発行為とは?
開発行為とは、主として建築物の建築等の用に供する目的で行う土地区画形質の変更を意味します。
評価対象地が広大地であるか否かを判断するには・・・・・・
課税時期において区画分譲を行う場合、① 開発道路を設けた開発計画と② 道路の開設が不要である路地状開発による敷地分割のいずれの方法が経済的に合理的であるか、その評価対象地が所在する県及び市町村における開発許可の具体的な運用に則って検証する必要があります。
評価対象地が広大地か否かを判断する場合、開発行為の十分な理解が不可欠です。
そして、開発行為に関連して開発区域内の意味、開発区域内に開設される道路、開発道路を設けた開発計画、路地状開発による敷地分割について見ていきましょう。
1.開発許可制度とは?
「開発許可制度」とは・・・・
開発許可制度とは都市計画法に基づき、主として良好かつ安全な市街地の形成と無秩序な市街化の防止を目的に開発行為等を都道府県知事等の許可に係らしめる制度です。
原則として許可権者は知事ですが政令指定都市、中核市、特定市についてはその長が許可権者となります。
開発許可制度が設けられた背景とは・・・・
開発許可制度が設けられた背景には、昭和30年代後半から昭和40年代に かけての高度経済成長の過程で、都市部に人口や産業が集中し、快適な都市生活を営むために必要不可欠な道路や公園等の整備が行われないままに市街地が形成 されるといった弊害が顕在化したため、これを防止する社会的要請が高まったことにあります。
そこで、都市計画法上の制度として一定の土地の造成に対するチェックを行うこと等により、新たに開発される市街地の環境の保全、災害の防止、利便の増進を図ることを目的に開発許可制度が設けられたのです。
2.開発行為とは?
「開発行為」とは・・・・
繰り返しになりますが、開発行為とは、主として建築物の建築等の用に供する目的で行う土地区画形質の変更を意味し、道路の新設を伴う宅地開発は「開発行為」に該当するが、単なる形式的な土地の分割等(路地状敷地による開発)は開発行為に該当しない。
すべての宅地分譲が開発行為になるわけではない!
評価対象地内において開発道路を設けずに敷地分割を行う場合には開発行為に該当せず、開発許可は不要となります!
3.「開発区域内に開設される道路」とは
「開発区域」とは・・・・・
開発行為(土地区画形質の変更)を行う土地の区域をいいます。
広大地の適用判断においては、評価対象地について区画分譲を行う場合を想定することから開発区域=評価対象地となるケースが殆どです。
したがって・・・
「開発区域内に開設される道路」とは・・・・・
概ね評価対象地の敷地内に新たに開設される道路を意味します。
4.開発道路を設けた開発計画とは
「開発道路を設けた開発計画」とは・・・・
評価対象地を開発区域として区画の分譲販売を行うケースを指します。
評価対象地(=開発区域)内において開発道路を新設して敷地分割を行う行為は「土地区画形質の変更」に該当し、開発行為と認められることから、開発許可が必要となります。
5.路地状開発による敷地分割とは
「路地状開発による敷地分割」とは・・・・
評価対象地を開発区域として区画の分譲販売を行うケースで、評価対象地内において開発道路を設けずに路地状敷地(敷延)により土地を分筆、販売することを意味します。
単なる分筆により分譲を行う路地状敷地による開発(路地状開発)は開発行為に該当しないため、開発許可は不要です。
6.名古屋市で開発行為を行う場合の流れ
では、実際の開発許可はどのように運営されているのでしょうか?
具体的に政令指定都市である名古屋市を例に実際の流れについて見てみましょう!
(1)名古屋市における開発許可の流れ
ア.都市計画法に基づく開発許可(都市計画法第29条から第40条)
主として建築物の建築等の用に供する目的で行う土地区画形質の変更を行う場合は原則として知事(政令指定都市、中核市、特定市の長)の許可を受けなければならない。
評価対象地が名古屋市に所在する場合、市街化区域の三大都市圏に該当するため、開発区域(=評価対象地)が500㎡以上であれば、開発区域内の道路新設を伴う区画の分譲販売は開発行為に該当し、開発許可が必要となります。
他方、路地状敷地による開発はそもそも開発行為に該当しないため許可不要です。
イ.許可権者
名古屋市内で行われる開発行為の許可権限は愛知県知事ではなく、政令指定都市である名古屋市長となります。
開発許可が認められるか否かは都市計画法、建築基準法等のみならず、名古屋市の開発行為の許可等に関する条例や開発行為の許可等に関する運用基準を遵守・適合することが求められます。
ウ.名古屋市開発行為の許可等に関する条例及び開発行為の許可等に関する運用基準
許可技術基準は条例ではなく行政指導ですが、行政手続法第5条の定めにより、許可権者である名古屋市が開発許可制度の運用基準を明確に規定したものであり、事実上、開発行為をおこなう事業者を拘束する基準として機能しています。
エ.「名古屋市開発行為の許可等に関する条例と運用基準を具体的に検証する
例えば、評価対象地の地積が500㎡以上で広大地と推定される場合に、開発道路を設けた分割案を想定する際に、最初に留意すべき事項は概ね以下のとおりです。
(ア) 住宅用途を目的とした開発行為で販売想定戸数は20戸以下であるか
(イ) 開発区域(評価対象地)の面積が3,000㎡未満か
(ウ) 開発区域の周辺道路(区域外道路になる予定の道路)の幅員が4m以上であるか
(エ) 開発区域の周辺道路(区域外道路になる予定の道路)の幅員が6m以上であるか
「名古屋市開発行為の許可等に関する条例及び運用基準」を遵守して、評価対象地について道路の開設を伴う開発行為が許可されるのはどよのうなケースなのか考えてみましょう!
7.開発許可が認められるか?理解すべき法律、施行令、条例、技術基準など
開発許可はそもそそも都市計画法に基づく許可です。
従って、開発行為及び開発許可を理解するには少なくとも以下の法律等を迅速かつ正確に理解する必要があります。
なお、当然ながら条例、行政指導、技術基準などは各地方公共団体、各市町村により千差万別です。
その評価対象地が所在する法規制等にすべて適合した開発計画を想定することで、はじめて開発許可が下りる(広大地として認められる)ことになります!
政令指定都市である名古屋市において広大地の分割(開発道路を設ける)を想定する場合に留意すべき法、施行令、条例等を以下に抜粋しました。
都市計画法と同施行令の内容について地方公共団体は、政令で定める基準に従って、制限を強化したり、逆に緩和することができるのです。これらを正確に読み取り法令等に適合する開発計画を想定する必要があります。
また経験上、名古屋市の開発許可に関する基準は緩いといえます。
もっと厳格、厳密な市町村は全国に山ほどあります!
これら法令上の適合性なくして広大地判定は不可能なのです!
また、「広大地を適用せず相続税の申告業務を行った」と税理士先生が訴えられてしまったような場面においても、相手方の意見書を調査し、都市計画法、建築基準法などの法律や各市町村によって異なる開発許可の運用(条例、行政指導、技術基準)について、意見書の内容や想定開発計画が適合しているかを徹底的に精査することで、相手方の「言いがかり」や「難癖」を退けることが可能なのです!
要約すると、名古屋市は開発道路を設ける場合の具体的な許可基準を条例等により緩和していることになります。開発道路や開発区域外の道路幅員を緩和し宅地開発を促しています。
8.都市計画法、同施行令、開発許可に関連する法令等の抜粋
都市計画法(抜粋)
(開発許可の基準)
第三十三条 都道府県知事は、開発許可の申請があつた場合において、当該申請に係る開発行為が、次に掲げる基準(第四項及び第五項の条例が定められているときは、当該条例で定める制限を含む。)に適合しており、かつ、その申請の手続がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならない。
2 前項各号に規定する基準を適用するについて必要な技術的細目は、政令で定める。
3 地方公共団体は、その地方の自然的条件の特殊性又は公共施設の整備、建築物の建築その他の土地利用の現状及び将来の見通しを勘案し、前項の政令で定める技術的細目のみによつては環境の保全、災害の防止及び利便の増進を図ることが困難であると認められ、又は当該技術的細目によらなくとも環境の保全、災害の防止及び利便の増進上支障がないと認められる場合においては、政令で定める基準に従い、条例で、当該技術的細目において定められた制限を強化し、又は緩和することができる。
4 地方公共団体は、良好な住居等の環境の形成又は保持のため必要と認める場合においては、政令で定める基準に従い、条例で、区域、目的又は予定される建築物の用途を限り、開発区域内において予定される建築物の敷地面積の最低限度に関する制限を定めることができる。
(省略)
都市計画法施行令第25条(抜粋)
(開発許可の基準を適用するについて必要な技術的細目)
1 道路は、都市計画において定められた道路及び開発区域外の道路の機能を阻害することなく、かつ、開発区域外にある道路と接続する必要があるときは、当該道路と接続してこれらの道路の機能が有効に発揮されるように設計されていること。
2 予定建築物等の用途、予定建築物等の敷地の規模等に応じて、6メートル以上12メートル以下で国土交通省令で定める幅員(小区間で通行上支障がない場合は、4メートル)以上の幅員の道路が当該予定建築物等の敷地に接するように配置されていること。ただし、開発区域の規模及び形状、開発区域の周辺の土地の地形及び利用の態様等に照らして、これによることが著しく困難と認められる場合であつて、環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上及び事業活動の効率上支障がないと認められる規模及び構造の道路で国土交通省令で定めるものが配置されているときは、この限りでない。
3 市街化調整区域における開発区域の面積が20ヘクタール以上の開発行為(主として第二種特定工作物の建設の用に供する目的で行う開発行為を除く。第6号及び第7号において同じ。)にあつては、予定建築物等の敷地から250メートル以内の距離に幅員12メートル以上の道路が設けられていること。
4 開発区域内の主要な道路は、開発区域外の幅員9メートル(主として住宅の建築の用に供する目的で行う開発行為にあつては、6.5メートル)以上の道路(開発区域の周辺の道路の状況によりやむを得ないと認められるときは、車両の通行に支障がない道路)に接続していること。
(省略)
名古屋市開発行為の許可等に関する条例(抜粋)
第 3 章 開発許可等の基準
(道路の幅員等)
第8条 都市計画法施行令(昭和44年政令第 158 号。以下「令」という。 ) 第25条第2号の規定にかかわらず、法第33条第3項の規定により、次の各号に該当する開発行為における道路の幅員は、4メートル(当該道路と一体的に機能する開発区域の周辺の道路の幅員が4 メートルを超える場合には、当該幅員)とする。
(1) 既に市街地を形成し、かつ、建築物等が立ち並んでいる区域内で行われること。
(2) 開発区域の面積が0.3 ヘクタール未満であること。
(3) 当該道路と一体的に機能する開発区域の周辺の道路の幅員が 6 メ ートル未満であり、かつ、6 メートル以上に拡幅される予定がないこと。
(4) 開発区域内において予定される建築物(以下「予定建築物」という。 )の用途が住宅(他の用途を兼ねるものを除く 。)であり、かつ、当該道路に面する予定建築物の住戸の数(ワンルーム型住戸(共同住宅の住戸でその床面積が25平方メートル以下のものをいう。以下同じ。 )を有する共同住宅にあっては、ワンルーム型住戸の数に2分の1を乗じた数にワンルーム型住戸以外の住戸の数を加えた数をいう。以下第10条及び第12条において同じ。 )が20以下であること。
(省略)
名古屋市開発行為の許可等に関する運用基準(抜粋)
第7章 開発許可の基準(法第33条第1項関係)
第24 道路(第2号関係)
(開発区域外の道路)
9 令第25条第4号の規定による開発区域外の道路は次の各号に掲げるとおりとする。
(1) 原則として開発区域内の主要な道路に接続するすべての道路をいい、その区間は交差点から交差点までの区間を単位として、幹線道路に至るまでの区間とする。
(2) 令第25条第4号括弧書に規定する「やむを得ないと認められるとき」は開発規模が小さく、周辺の交通等に与える影響に比して令第25条4号本文所定の幅員まで接続先の既存の道路を一定の区間にわたり拡幅することが著しく困難又は負担が過大と認められる場合等とする。
(3) 令第25条第4号括弧書に規定する「車両の通行に支障がない道路」は次に掲げるものとする。
ア 開発区域の面積にかかわらず、幅員が6m以上であるもの。
イ 開発区域の面積(2以上の既存の道路に接する開発行為で、開発区域の形状及び開発区域の周辺の状況により主として利用する道路が限定される場合は、それぞれの道路を利用する区域ごとの面積)が0.3ha未満で、予定建築物の用途が住宅(住戸の数が20以下の場合に限る。)又は大型自動車等を使用しない工場、倉庫その他これらに類するものであり、幅員が4m以上であるもの。
10 令第25条第2号ただし書、令第25条第4号括弧書及び規則第29条第2項に規定する既存の道路の幅員の緩和について、市長は、開発区域周辺の状況を鑑み、緩和の適用により当該道路の幅員を4mとすることが適切でないと判断する場合は、緩和の範囲を制限できるものとする。
(省略)
名古屋市開発行為の許可等に関する条例(抜粋)
第 3 章 開発許可等の基準
(予定建築物の敷地面積)
第16条 法第33条第4項 の規定により定める予定建築物の敷地面積の最低限度は、次の各号のとおりとする。ただし、次の各号に規定する面積を確保することが困難であり、かつ、日照、採光、通風及び防災の観点から支障がないと認められる場合は、この限りでない。
(1) 予定建築物の用途が一戸建ての住宅である場合は、130平方メートルとする。ただし、アからウまでに該当する場合は、それぞれアからウまでに定める面積とする。
ア 市街化区域内で行われる開発行為であって、当該開発区域の面積が0.1 ヘクタール未満のものにおいては、100平方メートルとする。
イ 市街化区域内で行われる開発行為であって、当該開発区域の面積が0.1 ヘクタール以上のものにおいて、 当該予定建築物の容積率が100分の6以下である場合は、160平方メートルとする。
ウ 市街化調整区域内で行われる開発行為においては、160平方メートルとする。
(2) 予定建築物の用途が長屋( 2 戸以上の住戸からなる建築物で、各住戸が土地に接するものに限る。)である場合は、 1 戸当たり 100平方メートルとする.
(省略)
8.法的側面からみた開発計画の実現性からの反証
今に始まった事ではありませんが、近年、特に更正の請求が盛んに行われています。
個人的には、更正の請求について特に思い入れはありませんが・・・
色々な意味で複雑な問題です。
最近では、言いがかりに近いものも多い気がします。
明らかに広大地に該当しない土地についてまで、過失により広大地の規定を適用しなかった(忘れたのでは?)と主張してくるケースも見られます。
また、更正の請求期限を過ぎた案件について調停、訴訟を起こす案件も見受けられます。
それが正しいものであれば適正な手続きのもとで裁判所等の判断を仰ぐべきですが・・・
広大地か否かについて適用が微妙なケースについて争いとなった場合に相手方の主張に反論し、こちらの主張の正当性を立証する必要があります。
いわゆる「結論ありき」な意見書や「言いがかり的」な調査報告書ほど、このような重要かつ基本的な部分が欠落している傾向があると感じています。
その反証において最も効果的であるのが、相手方の意見書や調査報告書が・・・・
- 法令に適合しない開発計画
をもとに評価対象地が広大地であると主張していることを暴くことです。
原告側には不法行為の成立要件について立証責任を負っていますので
(1) 問題となっている土地が、確実に「広大地」と判断される土地であったこと
(2) 広大地を適用しなかったことについて「故意」又は「過失」があったこと
を相手方の原告が立証する必要があります。
しかし、その根拠となる意見書の内容が法令違反の開発計画を元に作成されているなら・・・・
相手方の主張全体を揺るがす決定打になり得るのです。
第3 目次
- 1 広大地に関する紛争当事者となった場合の留意点
- 2 紛争が多発する広大地判定の歴史と沿革
- 3 近年多発する広大地をめぐるトラブル
- 4 あらためて広大地適用の3要件について考えてみる
- 5 広大地判定に不可欠な開発行為への理解(本稿)
- 6 広大地判定フローチャートとマンション適地の判定
- 7 相手方の広大地判定に関する意見書は恐れるに足らず!
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