第1 はじめに
これまで、広大地規定の沿革やトラブルが多発する理由、そして広大地に関し紛争当事者となった場合の留意点などについて書いてきましたが・・・・
今回は、広大地の原点である「適用3要件」について再度見つめ直してみましょう!
当たり前のことですが、広大地判定において、もっとも重要な部分なのですが・・・・反面、当たり前すぎて意外と疎かになっている部分ではないかと思います。
特に、成功報酬で更正請求を行っていると思われる事案や結論ありきの訴訟などでは財産評価基本通達、資産評価企画官情報、質疑応答事例などの見解と相容れない考え方も多く見られます。
第2 広大地の定義(財産評価基本通達24-4)
1.広大地とは?
広大地とは・・・・・
- ① その地域における
- ② 標準的な宅地の地積に比して
- ③ 著しく地積が広大な宅地で、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為
- を行うとした場合に
- ④ 公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいいます。
- ⑤ ただし、大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地
- 用地に適しているものは除く。
と定義されます。
2.その地域の具体的は判定方法とは?
広大地の定義について、その内容を詳しく見ていきます。
まずは、「①その地域」について書いていきます。
広大地に該当するか否かを検討する場合、「その地域」について具体的な範囲を判定しなければ、広大地の適用要件である「地積が著しく広大」か否か、及び「その地域の標準的使用及び最有効使用」を判定することは不可能なのです。
また、標準的使用とは、「その地域」における一般的な宅地の使用方法を意味するものであり、その判定は「その地域」において「課税時期に現実に実践されている一般的な使用方法」によって行われるため、標準的使用及び最有効使用の判定においても「その地域」の具体的範囲を判定する事が不可欠なのです。
国税庁質疑応答事例によれば「その地域」の具体的な範囲は・・・・・
原則として、評価対象地周辺の
① 河川や山などの自然的状況
② 土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断する道路、鉄道及び公園などの状況
③ 行政区域
④ 都市計画法による土地利用の規制等の公法上の規制
など、土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすものなどを総合勘案し、利用状況、環境等が概ね同一と認められる、住宅、商業、工業など特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものをいいます。
具体的な記載例としては・・・・
【 記載例 】
本件では国税庁:質疑応答事例に従い、利用状況、環境等が概ね同一と認められる戸建住宅としての用途に供されている「別添資料1」に図示した範囲をもって「その地域」と判定した。
その理由は、「その地域」の北西側から西及び南側が、市境(行政区域)であり、北東側から東側については平成○○年当時は現況山林であったことが確認されており、土地の利用状況の連続性と地域の一体性が分断されていると判断したためである。
しかしながら・・・・・
広大地か否かを判断する重要な要素である「その地域」について具体的な記載を行っている意見書・調査報告書は殆ど見たことがありません。
いわゆる「結論ありき」な意見書や「言いがかり的」な調査報告書ほど、このような重要かつ基本的な部分が欠落している傾向があると感じています。これら一連のテーマを書く契機となった名古屋国税不服審判所審判官の吉田正毅氏(弁護士出身)の事例研究においても同様の問題提起がなされていました。
また、訴訟において提出された「広大地に該当する土地を見落とした」と主張する意見書などで、「その地域」について簡潔な記述が見られる場合もありますが・・・・・
時間の経過により周辺地域の利用状況が一変しているにも関わらず、相続発生時の状況ではなく現在の地域の状況をもとに「その地域」を判定しているような例もありました。
相続発生時においては周囲に雑木林が広がる地域にも関わらず、宅地開発後の状況のみに着目し「戸建住宅が連たんする地域」=「その地域」と判定するずさんな意見書・調査報告書も見られます。
3.標準的な宅地の地積とは?
広大地の定義について、その内容を詳しく見ていきます。
次ぎに、「②標準的な宅地の地積」について書いていきます。
国税庁質疑応答事例によれば「標準的な宅地の地積」の具体的な判定方法は・・・
評価対象地の付近で状況の類似する地価公示の標準地又は都道府県地価調査の基準地の地積、評価対象地の付近の標準的使用に基づく宅地の平均的な地積などを総合勘案して判断します。
なお、標準的使用とは、「その地域」で一般的な宅地の使用方法をいいます。
即ち、標準的な宅地の地積は付近の公示地等の面積を調べると同時に「その地域」の一般的な宅地の使用方法による地積を調査して判断することになります。
当然、標準的な地積を判定するには「その地域」の具体的な範囲を判定する必要があるのです。
具体的な記載例としては・・・・
【 記載例 】
本件では「標準的な宅地の地積」を、① 課税時期において評価対象地の付近に設定されていた標準地 ○○-1及び基準地 ○○(県)-2の地積と、② その地域で一般的な標準的使用に基づく平均面積を下記のとおり求め、両者を総合勘案して③ 標準的な宅地の地積を180㎡と判定した。
① 標準地 ○○-1及び基準地○○(県)-2の地積
「別添資料2及び3」より、相続発生年において評価対象地の付近に位置した標準地○○-1(平成○○年当時)の地積は160㎡、基準地○○(県)-2の地積は190㎡であり、両者の平均地積は180㎡であった。
なお、標準地 ○○-1は平成24年以降廃止されているため、詳細な内容については相続発生年における官報及び公報に記載された内容により確認した。
② 「その地域」の標準的使用に基づく平均面積
「別添資料4」より、その地域の標準的な宅地の使用方法(戸建住宅)としての使用に基づく平均的な面積は概ね190㎡であった。
当該平均面積の把握に当たっては、合理的に判定した「その地域」の宅地について、相続発生時の平成○○年当時における所有者、当時の住宅地図から推定される現況の利用状況、公図等から利用単位毎の画地を調査し宅地等として利用されていた当時の登記面積を把握し、その平均値を求めたものである。
③ 「その地域」の標準的使用に基づく平均面積
国税庁の質疑応答事例に従って、前記①②を総合勘案して、戸建住宅としての利用が中心の標準地等から求めた標準的な地積と、「その地域」の標準的な宅地の使用方法としての使用に基づく平均的面積を比較検討して「その地域における標準的な宅地の地積」を180㎡と判定した。
しかしながら・・・・・
広大地か否かを判断する重要な要素である「標準的な宅地の地積」について国税庁の質疑応答事例に従って具体的に求めている意見書・調査報告書は殆ど見たことがありません。
いわゆる「結論ありき」な意見書や「言いがかり的」な調査報告書ほど、このような重要かつ基本的な部分が欠落している傾向があると感じています。これら一連のテーマを書く契機となった名古屋国税不服審判所審判官の吉田正毅氏(弁護士出身)の事例研究においても同様の問題提起がなされていました。
訴訟において提出された「広大地に該当する土地を見落とした」と主張する意見書では、「その地域」について何らの記述がないにもかかわらず、いきなり面積を算出するケースが殆どです・・・・・そして、その標準的な面積は当然結論ありきであって、例えば敷地の最低分割面積として定められている「120㎡」をそのまま記載する意見書も多いです。
また、よく見かけるのが・・・・
相続発生年に設定されていた標準地・基準地を調べ忘れたずさんな意見書・調査報告書が多く見られます。
4.著しく地積が広大とは?
広大地の定義について、その内容を詳しく見ていきます。
更に、「著しく地積が広大」か否かの判定方法について具体的に書いていきたいと思います。
平成17年6月17日付資産評価企画官情報第1号によれば・・・・・
その面積基準としては、基本的に、開発許可面積基準を指標とすることが適当である。・・・なお、開発許可基準面積以上であっても、その面積が地域の標準的な規模である場合は、当然のことながら、広大地に該当しない。
となっています。
また、国税庁質疑応答事例における「著しく地積が広大であるかどうかの判定」によれば・・・・
評価対象地が都市計画法施行令第19条第1項及び第2項の規定に基づき各自治体の定める開発許可を要する面積基準(以下「開発許可面積基準」といいま す。)以上であれば、原則として、その地域の標準的な宅地に比して著しく地積が広大であると判断することができます。
なお、評価対象地の地積が開発許可面 積基準以上であっても、その地域の標準的な宅地の地積と同規模である場合は、広大地に該当しません。
[面積基準]
イ 市街化区域、非線引き都市計画区域及び準都市計画区域(ロに該当するものを除く。)
・・・都市計画法施行令第19条第1項及び第2項に定める面積(※)
※(イ)市街化区域
三大都市圏・・・・・・・・・・・・・・・・ 500平方メートル
それ以外の地域 ・・・・・・・・・・・・・ 1,000平方メートル
(以下、省略)
国税庁の資産評価企画官情報及び質疑応答事例によると評価対象地について著しく地積が広大か否かを判断する1つの基準として500㎡が例示されています。
通常は、市街化区域の三大都市圏に位置する土地で500㎡以上であれば、原則として「地積が広大」と判断されることが一般的です。実務上も500㎡以上の地積がある土地については、まずは広大地の可能性ありと考えます。
しかしながら、資産評価企画官情報及び質疑応答事例では「評価対象地の地積が開発許可面積基準以上の500㎡であっても、「その地域」の標準的な宅地面積と同規模である場合」には広大地を否定しています。
質疑応答事例に基づき算定した、「その地域」の標準的な宅地面積が例えば600㎡であった場合、評価対象地の地積がたとえ面積基準の500㎡を超えていても、標準的面積と比較し著しく過大とは言えず広大地に該当しないことになります。
500㎡以上の土地であっても広大地の適用要件「著しく地積が過大」に必ず該当するとは限らないのです。
従って・・・・・・
広大地の適用に関して裁判に発展してしまった場合、例えば「広大地を適用せず相続税の申告業務を行った」と税理士先生が訴えられてしまったような場面においても、相手方の意見書を精査し、「その地域」の判定状況や「標準的な宅地の地積」の算出過程、「著しく地積が過大か」の検証について反論、反証することは充分に可能なのです。
最近、成功報酬により広大地適用について更正の請求を積極的に業とする不動産鑑定士がいます。非常に残念なことです・・・
それが明らかに広大地である土地について「適用を失念」してしまったケースであれば仕方がないのですが・・・・実際には成功報酬を理由に「言いがかり」「難癖」に近い意見書も多く見受けられます。
税理士先生はこのような騒動に巻き込まれない様に普段から準備を怠ってはいけません。
5.公共公益的施設用地の負担とは?
開発行為を行うとした場合、道路などの「公共公益的施設用地の負担」が必要とみとめられるかについて書いていきたいと思います。
広大地の定義及び資産評価企画官情報並びに質疑応答事例によれば、開発行為を行うとした場合、「公共公益的施設用地の負担が必要」か否かの判断は、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合の、当該開発区域内に開設される道路の開設の必要性により判定することが相当であるとされています。
平成17年6月17日付資産評価企画官情報第1号によれば「公共公益的施設用地の負担」の要否について・・・・
評価通達において、「公共公益的施設用地」とは、道路、公園等の公共施設の用 に供される土地及び教育施設、医療施設等の公益的施設の用に供される土地(これらに準ずる施設で、開発行為の許可を受けるために必要とされる施設の用に供される土地を含む。)」をいう・・・・
し かし、広大地の評価は、戸建住宅分譲用地として開発した場合に相当規模の 「公共公益的施設用地」の負担が生じる土地を前提としていることから、公共公益的施設用地の負担の必要性は、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った 場合の、当該開発区域内に開設される道路の開設の必要性により判定することが相当である。
国税庁質疑応答事例によれば「広大地評価における公共公益的施設用地の負担の要否」は・・・
広大地の評価は、戸建住宅分譲用地として開発した場合に相当規模の公共公益的施設用地の負担が生じる宅地を前提としていることから、「公共公益的施 設用地の負担が必要と認められるもの」とは、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合にその開発区域内に道路の開設が必要なものをいいます。
したがって、例えば、次のような場合は、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担がほとんど生じないと認められるため、広大地には該当しないことになります。
(1) 公共公益的施設用地の負担が、ごみ集積所などの小規模な施設の開設のみの場合
(2) セットバック部分のみを必要とする場合
(3) 間口が広く、奥行が標準的な場合
(4) 道路が二方、三方又は四方にあり、道路の開設が必要ない場合
(5) 開発指導等により道路敷きとして一部宅地を提供しなければならないが、道路の開設は必要ない場合
(6) 路地状開発を行うことが合理的と認められる場合
なお、「路地状開発を行うことが合理的と認められる」かどうかは次の事項などを総合的に勘案して判断します。
1 路地状部分を有する画地を設けることによって、評価対象地の存する地域における「標準的な宅地の地積」 に分割できること
2 その開発が都市計画法、建築基準法、都道府県等の条例等の法令に反しないこと
3 容積率及び建ぺい率の計算上有利であること
4 評価対象地の存する地域において路地状開発による戸建住宅の分譲が一般的に行われていること
(注)上記の(3)~(6)の区画割をする際の1区画当たりの地積は、評価対象地の存する地域の標準的使用に基づく「標準的な宅地の地積」になります。
すなわち・・・・
開発行為を行うとした場合、「公共公益的施設用地の負担が必要」か否かの判断は、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合の、当該開発区域内に開設される道路の開設の必要性により判定することが相当であるとされています。
したがって・・・・
評価対象地を開発区域として区画分譲を行う場合に、開発道路を設けた開発計画よりも、道路の開設が不要である路地状開発による敷地分割を行うことが合理的と認められる場合には広大地に該当しないことになります。
では、開発道路を設けた開発計画と路地状開発による敷地分割のどちらがより合理性があるのがの判断・立証が重要となりますが・・・・・
その前に、「広大地の定義」を理解するに当たって開発行為を理解しないわけにはいきません!
次回は「開発行為」について詳しく書いていきたいと思います。
第3 目次
- 1 広大地に関する紛争当事者となった場合の留意点
- 2 紛争が多発する広大地判定の歴史と沿革
- 3 近年多発する広大地をめぐるトラブル
- 4 あらためて広大地適用の3要件について考えてみる(本稿)
- 5 広大地判定に不可欠な開発行為への理解
- 6 広大地判定フローチャートとマンション適地の判定
- 7 相手方の広大地判定に関する意見書は恐れるに足らず!
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