まえがき
1.はじめに
先日、名古屋国税不服審判所審判官の吉田正毅氏(弁護士出身)が、非常に興味深い事例研究を発表されていました。
氏の立場からは当然、個人的見解であることが明言されていますが、私も、その内容・考え方等について非常に共感を覚え「広大地に関する紛争当事者」となった(なっている)方たちに是非知って頂きたいと強く感じました・・・
これまでの広大地に関する判決及び裁決に対する検討を踏まえ、今後、仮に自分が広大地の適否に関して紛争当事者となった場合にどのようなスタンスで自分の主張を立証し、相手方の主張に反論すべきなのかについて書いていきたいと思います。
なお、本稿はあくまで個人的見解であることをご了承下さい。
2.目次
- 1 広大地に関する紛争当事者となった場合の留意点(本稿)
- 2 紛争が多発する広大地判定の歴史と沿革
- 3 近年多発する広大地をめぐるトラブル
- 4 あらためて広大地適用の3要件について考えてみる
- 5 広大地判定に不可欠な開発行為への理解
- 6 広大地判定フローチャートとマンション適地の判定
- 7 相手方の広大地判定に関する意見書は恐れるに足らず!
3.経験談から税理士先生にお伝えしたいこと
今に始まった事ではありませんが、近年、特に更正の請求が盛んに行われています。
個人的には、更正の請求について特に思い入れはありませんが・・・
色々な意味で複雑な問題です。
仮に過大な納税を相続人等がしていた場合には、やはり適正な納税額に正す必要があるのは当然です。
相続税の申告業務をご担当された税理士先生はプロとして報酬を受領している以上、やはり専門職業家としての善管注意義務が求められるのは当然のことであると思います。
しかしながら・・・・
最近では、言いがかりに近いものも多い気がします。
明らかに広大地に該当しない土地についてまで、過失により広大地の規定を適用しなかった(忘れたのでは?)と主張してくるケースも見られます。
また、更正の請求期限を過ぎた案件について調停、訴訟を起こす案件も見受けられます。
それが正しいものであれば適正な手続きのもとで裁判所等の判断を仰ぐべきですが・・・
広大地か否かについて適用が微妙なケースについて争いとなった場合に相手方の主張に反論し、こちらの主張の正当性を立証する必要があります。
では、このような場合について
- 紛争当事者(被告)が留意しなければならない事
について以下、私見を述べさせて頂きます。
なお、本稿では更正の請求期限を過ぎた場合で調停が不調になったケースについて書いていきます。
よって、期間は相続発生日から5年10ヵ月以上経過していることになります。
最近、成功報酬により広大地適用について更正の請求を積極的に業とする不動産鑑定士がいます。非常に残念なことです・・・
それが明らかに広大地である土地について「適用を失念」してしまったケースであれば仕方がないのですが・・・・実際には成功報酬を理由に「言いがかり」「難癖」に近い意見書も多く見受けられます。
税理士先生はこのような騒動に巻き込まれない様に普段から準備を怠ってはいけません。仮に巻き込まれてしまった場合には以下の点に留意しつつ、冷静な対応が必要となります。
4.被告側の留意点
紛争が裁判に発展してしまった場合に被告(「広大地を適用せず相続税の申告業務を行った」と訴えられた税理士先生と仮定します)は以下の諸点に留意する必要があります。
- 1 腕の良い弁護士先生に依頼する
これは言わずもがな・・・基本中の基本です。
相続税は法律ですが、実務上は「財産評価基本通達」が相当な拘束力をもっています。相続税申告の実務バイブルと言っても過言ではありません。
この辺りの法律・通達との関係や時価の定義(相続税法第22条)はもちろんのこと広大地規定の趣旨や背 景等についても深い理解をもって頂ける弁護士先生に依頼することが重要です。
または同じ税賠事件を多数手掛けている先生に依頼することも必要かもしれません。
税理士先生には「広大地を適用すべき土地について広大地評価を行わなかった」という不作為が・・・・
(1) 違法でなかったこと
(2) 広大地を適用しなかったことについて「故意」または「過失」がなかった
というスタンスが求められます。
逆に、原告側には不法行為の成立要件について立証責任を負っていますので
(1) 問題となっている土地が、確実に「広大地」と判断される土地であったこと
(2) 広大地を適用しなかったことについて「故意」又は「過失」があったこと
を相手方の原告が立証しなければならないのです。
- 2 「言いがかり」か否かを見極める
問題となっている土地について以下のどれにあてはまるか検討をします。
(1)明らかに広大地と認められる土地
(2)広大地であるか微妙で意見が分かれる土地
(3)あきらかに広大地の適用要件を満たさない土地(言いがかり)
(1)(2)の場合にはすぐに弁護士先生と協議して「腕の良い不動産鑑定士」に意見を求めましょう。
- 3 「腕の良い不動産鑑定士」の見分け方
税理士先生が積極的に関与して「腕の良い不動産鑑定士」に意見を求めることが重要です。
弁護士先生にお任せではなく税理士先生自ら不動産鑑定士の力量を見極める必要があります。
不動産鑑定士の力量を判断するポイントを以下に列挙します。
(1)相続税、財産評価基本通達に精通しているか?
広大地規定(24-4)は当然ですが、特に「評価単位の判定」を十分に理解している不動産鑑定士は実は非常に少ないのです。相続税申告に用いられる土地の評価単位の判定は、不動産鑑定士が一般に認識している評価単位とは大きく異なり、そもそも弁護士・税理士先生と意思疎通ができないケースもあるほどです。
また、不動産鑑定という自分の専門分野に固執する鑑定士などは論外です。(実は結構多いのです・・・)相続税法、財産評価基本通達への深い知識に加え、民法等の十分な理解が必要であり、かつ、弁護士、税理士、不動産鑑定士というそれぞれの専門分野の「橋渡し」ができる柔軟な姿勢と知識をもった不動産鑑定士に相談することが不可欠なのです。
また、広大地の意見書を多く手掛けていると自負する鑑定士であっても、いわゆる「安かろう悪かろう」の不動産鑑定士などは論外です。場数を踏んでいるだけに一見良さそうに感じますが・・・・実はこのタイプの鑑定士は、依頼された土地が広大地に該当するという一定のストーリーを組み立て意見書を発行(乱発)しているため、広大地規定の趣旨や実経済との関連など全般的に知識が浅く訴訟に耐えられない意見書を書いてしまうケースが多い(実体験としての感触です・・・・)のです。結論はもとより、その判断に至った過程について「客観性」の高い意見書を作成する力量が必要なのです。
そもそも訴訟における反論書は、すべてオーダーメイドの意見書として慎重な理論構成が必要ですし、5年以上前の資料を収集するにも不動産鑑定士の技量に大きく左右されます。
多くの意見書を拝見しましたが、使えない意見書に共通しているのは、やはり「安かろう悪かろう」なのです。
(2)不動産鑑定業者としての登録更新回数(営業年数)
不動産鑑定業を何年継続しているか?営業しているかを確認することは重要です。
確かに心機一転独立した不動産鑑定士にも優秀な人はたくさんいます。
逆に営業年数が長いだけの不動産鑑定業者があるのも事実です。
しかしながら、訴訟においては営業年数は比較的重要な要素となります。
何故なら・・・・
広大地の適用可否についての裁判では、その性質上、既に相続発生日から相当年数が経過しています。
広大地規定を適用できたのか否かの判断は当然相続発生日に遡って検証されることになります。
この場合、豊富な資料や不動産鑑定業者としての設備のほか経験、不動産鑑定士の実務能力とそれを支えるスタッフの質に大きな差が生じてくるのです。
独立したばかりの不動産鑑定士が訴訟案件を手掛けるのは正直稀なケースと推定されますし、不動産鑑定士及び鑑定業者としての相対的な実力や信用度は登録更新回数や営業年数とある程度比例する部分があるからです。
また、お付き合いのある有能な不動産鑑定士に依頼するのが望ましいのですが、その場合にはそもそも訴訟になっていないと考えられるので、不動産鑑定士を選ぶ一つの指標とするのも良いと個人的には思います。
不動産鑑定業者の登録更新回数は改正により現在5年に1度で都道府県知事の登録を受けています。
更新回数が多いほど営業年数は長くなりますが、組織変更や2以上の都道府県に支店を置く不動産鑑定業者は、国土交通大臣による登録を受けることになります。
登録の更新回数は以下の表記で判別できます。
愛知県知事登録(1)第○○号
→ この表記であれば愛知県のみに事務所を置く不動産鑑定業者で営業年数が5年以下となります。
国土交通大臣登録(12)第○○号
→ この表記であれば2以上の都道府県に事務所を置く不動産鑑定業者で12回の登録更新を行っていることになります。
交換した名刺などでも簡単に確認できます。
- 4 当時の状況を正確に把握する
前述のとおり広大地の適否について訴訟となる場合では相続発生時から5年10か月以上の期間が経過していることになります。この約6年という時間の経過は実は非常に厄介なものなのです。なぜなら・・・・
(1) 土地の利用現況が大きく変わっている
当時は更地であったがマンションが建設されたり、戸建分譲されているケースが多々あります。
また、相続発生後の分筆、合筆、地積更正、地目変更など留意すべき確認事項は多いのです。
判定日はあくまで相続発生日であるが、相続に全く関係ない新所有者がいると現地調査などにも支障がある場合も想定しなければなりません・・・・
当時の状況をイメージすることが困難であったり、周辺の利用状況も大きく変わっている場合も当然あります。
また、当時の利用現況を精緻に調査した結果、当時の画地認定の状況に疑義が生じたり、当時の現況面積が登記面積より著しく小さいことが判明し、そもそも広大地の面積要件を充足していないケースが発覚したりする場合も・・・・・
これらを詳細に検討・確認し、相続発生時点の状況を把握する必要があるのです。
(2) 人間関係が大きく変わっている
相続発生後に所有者が変わったり、関係する相続人の死亡により係争当事者が複雑になったりするケースもあります。
また、評価を担当した税理士先生が既に他界されているケースや当時の評価担当者の退社など、相続発生時の状況が不鮮明な場合もあるため、可能な限り正確な状況把握を行う必要があります。
(3) 法律、通達、情報、解釈などについて改正や新たな解釈が加わる
現在の広大地規定は平成16年の通達に一部改正が加えられたものです。
次回に「広大地判定の歴史と沿革」について記述しようと思っています。
既に、当初の施行運営から10年以上が経過しており、その過程において多くの情報・事務連絡、解釈が蓄積されており、相続発生時に正しいと思われた判断が、その後の正しくない判断と認識されてしまうケースも発生します。
あくまで、相続発生日に善管注意義務違反が無かったかどうかについて理論展開することが重要で、広大地規定の趣旨、判例、裁決や国税庁の見解の推移について高度な知識と柔軟な思考が要求されます。
(4) 資料収集の困難性
過去の住宅地図、電子住宅地図、国土基盤情報、国土数値情報、当時の都市計画法、建築基準法、宅地開発指導要綱の確認方法も重要です。
特に注意しなければならないのは当時の道路幅員、市道認定の有無、周辺の道路と拡幅状況などで、これらについては高度な確認作業が必要となります。
また当時の宅地分譲の状況、マンション建設の推移動向や相続発生年次における地価公示・地価調査ポイントの位置、地積の把握なども重要な確認作業です。
これら過去時点における資料の収集能力が勝敗の行方を大きく左右するため、正確な資料収集と把握が意見書の客観性を大きく高めることに留意する必要となります。
相続税独特の通達、評価単位、評価時点を十分に理解し法律、税金、評価というそれぞれの専門分野の「橋渡し」ができる柔軟な姿勢と知識をもった不動産鑑定士はごく僅かな人数しかいないのが現状である。
不動産鑑定業者の初回登録年月日及び過去1年間の主たる実績は国土交通省のHP「土地総合情報ライブラリー」で閲覧できます。
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