平成29年度の税制改正大綱より「広大地評価の見直し」について!
先日、ウィンクあいち(愛知県産業労働センター)にて租税訴訟学会名古屋支部研修会が主催され、平成29年度の税制改正大綱~広大地評価の見直しについて~という内容で講師を務めさせていただきました。
本研修会は名古屋税理士会と東海税理士会の研修として単位(税理士会認定研修4時間)が付与されることもあって、愛知県はもとより他県からも大勢の税理士先生と弁護士先生にご来場頂きました。
多くの先生方のご尽力により、このような機会を与えて頂き感謝しております。
「広大地評価の見直しについて」の研修内容
研修会では現行の平成16年改正の広大地についての復習と、今後の改正について注目すべき事項について取り上げました。しかしながら、現時点(2017年6月12日)では広大地の改正内容の具体的な内容や詳細は明らかになっておりません。
従って、自民党税調小委員会の資料や税務通信などの情報をもとに、今後予測される改正内容とその方向性についてお話しました。
平成29年度の税制改正大綱~広大地評価の見直しについて~
- そもそも広大地とは?
- 広大地の歴史と背景について
- なぜ広大地は改正されるのか?
- 通達改正の概要
- 平成29年度税制改正大綱より
- 通達改正案の概要
- 具体的な通達改正案
- 法律と通達・情報の位置づけ
- 法律上の時価
- 通達上の時価
- 時価のまとめ
- 補足資料
広大地規定の改正と経済的背景について
また、研修会では広大地の改正経緯やその背景となった我が国の経済動向についても併せてお話しました。
詳しくは以前に「広大地評価とは?その歴史と背景」というコラムを書いていますので、併せて御覧いただけると良いかと思います。
- 1 グラフの中身について
ちょっと細かくて見にくいのですが・・・・棒グラフは日経平均株価の年末終値です。
折れ線グラフは全国の地価平均推移を表しています。
では広大地規定の変遷を当時の時代背景・経済動向とともに見ていきます。
まず日本経済についてですが昭和50年代から平成3年のバブル経済崩壊まで急激に拡大していきます。
地価も急激に上昇していきます。
- 2 高度経済成長期とバブル崩壊
次に平成にはいって平成4年には地価税が導入されます。これに併せて土地の評価方法を全国的に統一する必要がありました。そこで地価税導入への準備と土地基本法の公的土地評価の適正化への要請を受けて財産評価基本通達が平成3年に全国的に統一されます。
その後、平成3年の通達統一から3年たった平成6年に広大地規定が導入されます。全国的な統一基準にはじめて広大地が規定されたことになります。
この平成6年の広大地は有効宅地化率の概念を導入したため、精緻な土地分割計画を作成する必要がありました。非常に手間のかかる規定でした・・・・反面、広大地と認められても現在の広大規定ほど大幅に減価されるものではありませんでした。
平成元年 土地基本法の公的土地評価の適正化への要請
平成3年 財産評価基本通達の全国統一とバブル経済の崩壊
平成4年 地価税の導入
平成6年 初めて「広大地(有効宅地化率)」規定が財産評価基本通達に盛り込まれる。
そして10年後の平成16年に現在の広大地に通達改正されることになります。現行の広大地です。現在の広大地は審査の簡便も見据えた改正がおこなわれました。確かに計算は暗算できるほど簡単になりましたが、肝心の広大地に該当するか否かの判断が非常に難しくなったのです。
- 3 長期地価下落「失われた10年」
バブル経済の崩壊以降も日本経済を取り巻く環境は厳しいものとなりました・・・
平成7年 阪神淡路大震災
平成8年 住専問題(あの平成の鬼平:中坊弁護士が活躍しました)
平成9年 山一証券の自主廃業
平成10年 北海道拓殖銀行の破綻、日本長期信用銀行、日債銀の国有化
など日本経済は長期間停滞します。
この期間は物納が急増しました。
- 4 リーマンショックからデフレ脱却「アベノミクス」へ
ちょっと持ち直したかなって時期にはリーマンショックで急激な冷え込みを経験して、いまではアベノミクスによりデフレ脱却、株価上昇の基調になってます。
- 5 平成29年度広大地改正と経済背景
注目したいのは平成3年バブル経済崩壊以降の長期にわたる地価下落です。
土地は売れないし地価は相続発生日から申告期限の10か月の間でもみるみる下落する状況です。
こんな状況化で大きな土地は取引総額が高くなりますから売れません、土地売却で納税資金を調達することが難しくなりました。
反面、平成6年の広大地は減価率が今のように大きくないですから、広大地の評価額は市場の売却予測価格よりも高止まりするとった現象がみられることになります。その結果、相続人は広大地を物納してしまえとなるわけです。結果、平成6年の広大地を利用した物納が急増したといわれています。
しかしながら平成6年の広大地規定は有効宅地化率を導入した非常に実務色の強いものでした。申告時に詳細な画地割の図面を書き、販売計画や開発指導要綱との整合性など大量の書類を提出するわけです。これは申告する側も大変ですが、もっと大変なのは課税庁です。1つずつ広大地に該当するか?を逐一判断していかなくてはなりません。そしてなにより急増する物納件数を抑制する必要も生じました。
そこで、徴税費用の節減と物納件数の抑制も視野に入れて平成16年に広大地規定が改正されたと考えています。
このような経緯から現在の広大地規定は、一つ目に計算は簡単、図面も不要、二つ目に、長期の地価下落と物納件数の激増を背景に大幅減額を認めるものになっています。反面、広大地に該当するか否かの判断が非常に難しくなり、改正した16年と翌年には立て続けに広大地に関する資産評価企画官情報が公表されるほど現場は混乱しました。
しかし、平成20年のリーマンショック以降、日本経済は堅調に回復傾向に転じており、近年地価も上昇にて推移しています。さらに平成18年の物納制度の厳格化により物納件数は激減し広大地規定により物納を抑制する必要がなくなりました。
平成29年現在と平成16年当時では時代背景や経済動向が大きく変化しています。これらを総合的に勘案しますと、平成29年度の広大地改正は、自ずと広大地補正率の縮小、適用要件の明確化に焦点がと当たってくると思われます。
平成29年度税制改正大綱「広大地改正」の概要
長期の地価下落からアベノミクスにより景気は回復傾向にあり地価も堅調に推移しています。
マンション建設も盛んであるため広大地は市場で高値で換金できます。反面、相続税の評価上は広大地補正率の適用により評価額が相当程度低く抑えられています。地域によっては、市場における換金価格と財産評価基本通達による評価額のギャップが広がっている状況です。
また無視できないのは・・・富裕層による広大地を利用した節税対策です。そもそも広大地に適合する土地を所有しているのは富裕層が圧倒的に多いのが現状です。詳細は割愛しますが、富裕層による様々な節税対策も行われたという話もあります。
近年は基礎控除の縮小と税率の変更など富裕層課税を強化する流れです。
担税力が高い富裕層が広大地補正率の恩恵を著しく受けることが現在の時流には、やはり馴染まないといえます。
現段階の情報では広大地の改正内容は・・・・
面積のみで減価率が決まる評価方法を改めること、そして土地の個性、たとえば形状や奥行などを考慮した減価方法を取り入れる方向になるようです。同時に適用要件の明確化も行われます。
では税制改正大綱の具体的な内容について見ていきましょう。
広大地改正案の具体的な内容
こちらは税制大綱の抜粋になります。
広大地に関する改正内容についてみると・・・
現在は土地の面積に比例的に減額するだけの方法であったが、下記の通り見直すとなってます。
◆相続税等の財産評価の適正化◆
<平成29年度税制改正大綱より>
相続税法の時価主義の下、実態を踏まえて、次の見直しを行う。
① ・・・
② ・・・
③ 広大地の評価について、現行の面積に比例的に減額する評価方法から、
各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すととも
に適用要件を明確化する。
広大地補正率はたしかに面積が大きくなればなるほど減価率が大きくなり最大で▲65%の減額が認められるものでしたが、3要件に適合すれば形状は無視です。
土地の形が良くても悪くても、たとえウナギの寝床のような土地でも、角地、三方路であっても面積が同じなら減価率も同じでした。
しかしながら「時価主義のもと」、すなわち市場の実態をふまえて改正すると大綱では明記されています。
実際、土地の価格は面積のみならず、形状なども価格に大きく影響する要因です。これを今回の改正で反映して実態に即した減価に変更されます。
また、今回の改正は広大地の面積一辺倒の減価を改めることなので、「各土地の個性に応じて評価」というところがキーワードになってくるのではないでしょうか・・・
広大地:通達改正案の概要
税務通信などをみると改正の織り込まれる土地の個性として形状、奥行があげられています。
面積はもともと現行規定で反映されていますが5000㎡以上はすべて一緒となってます。この減価の上限値についても見直しされるかもしれません。
広大地補正率と「形状」について
まず土地の形状からですが・・・図1の中には3つの土地ABCがあるとしましょう。3つの土地はいづれも同じ面積1,500㎡と仮定します。それぞれの土地はマンションに向かない土地であるため図1から図2のように矢印にそって、それぞれABCを分割販売するとします。それぞれ細分化して道路を新設して販売すると仮定してください。ピンク色の部分が新設する開発道路になります。つまりABCは広大地の適用3要件を満たす土地であるとお考え下さい。
実際の市場では形状が良い土地はディベロッパーが高く買います。理由は形状が良い素地は、細分化して転売するときにも、やはり形状がよい形で分割しやすいので、均衡が取れたきれいな四角の土地として販売できるからです。図2のA①のような宅地ですね。
図2のA①の土地が市場では一番高く(単価ベース)売れます。また短期間で販売しやすい土地ということになります。
逆に形状が悪い土地、図1のBCは、もともと素地としての形状が悪いので、細分化して転売する各々の土地形状も悪くなることが多くなります。図2のB②③や図2のC④から⑥のように形状が悪い土地が発生してしまい、これらを全部売り切るには販売価格を安く設定したり、結局最後まで売れ残ってしまった場合には処分価格で販売するなどのリスクが増加します。
そもそも広大地になるような大きな土地はディベロッパーが転売目的に買うので、形状により仕入れ値が大きく変わってきます。企業の利益追求として当然の行動なんですが、形状によって市場価格が変わるのであれば、時価主義を前提とする財産評価基本通達としてはこれを改正・反映する必要があるというところです。
現行では形状による減価は盛り込まれていませんので今回の改正で織り込もうということです・・・・
広大地補正率と「奥行」について
土地の奥行も形状と同じように価格に大きな影響を与えます。
図3の4つ奥行が異なる土地ABCDを図4のように新設道路をつくって細分化して販売することを想定します。これらの土地も広大地適用3要件を満たしているとしてください。
先ほどの形状については市場の実態行動として仕入れ値ベースに差が出るという話でしたが、本件の奥行については行政の法規制による部分が大きいという点で大きく異なります。
実は広大地要件の3つめ「道路を新設する必要がある」についてですが、実は道路を新しく造る場合には都市計画法や建築基準法だけではなく地方自治体ごとに定める道路の技術基準があって、道路幅員や角切、側溝の構造などが細かく指導される場合がほとんどです。かなり細かい話なので詳細は割愛しますが、土地の面積や設置予定の道路延長に応じて、新設する道路の幅員が変わったりします。
4m道路で良い場合や6m道路にしなければいけない場合など市町村によって様々ですが指導要綱などにより規定があります。特に行き止まり道路を新設するとなると地震や火事などの防災の観点からもより広い道路を作る必要があったり、転回広場を作らなければいけない場合もあります。
道路を多く必要とするとなると、販売可能な土地の面積は当然減りますから、転売目的の法人ディベロッパーは当然奥行が長い土地の仕入れ値を安くすることになります。
このため、奥行についても法令の要請により道路負担率が増減して、結果的に市場価格が変動するのであれば、時価主義を前提とする通達としては改正・反映する必要があるというところです。
原則的には奥行が長いほうが道路負担率は高くなりますが・・・・これも転回広場やターンバックを設置する必要があるかにもよりますし一概にはいえません。
では下図で図5のピンク色の新設道路が奥行によってどのように変化するのか、道路負担率と面積・奥行を具体的に見てみましょう。
原則的には奥行が長い土地ほど道路、転回広場、ターンバック、避難経路の設置を要求され、必然的に道路負担率が増えます。つまり売り物にならない土地が増えるので仕入値は安くなる、だから改正で奥行きに応じた補正率を織り込むということになりました。
図5のBとDに着目してください。
Bは転回広場を設けた分割です。Dは通り抜け道路を設けています。
BよりDの方が奥行きがかなりありますが・・・・
ピンク色の道路部分が全体面積に占める割合、つまり道路負担率はいづれも20%です。奥行と道路負担率は必ずしも比例しないことが分かります。
ですから市町村が道路の構造を指定する以上、原則、奥行が長い方が道路負担率が大きくなり価格は安くなるといえますが、図5のBDのように奥行の長さのみをもって比例的に補正率を設定するのは中々難しいのでは・・・
広大地適用要件の明確化:「容積率」について
また、適用要件の明確化も行われる予定ですので3要件のうち、もっとも悩ましいマンション適地か否かの判断が実務上どのように行われるのか、研修では容積率と併せて検証してみました。
具体的な広大地補正率の改正内容と計算式
下図の式のうち上段が現行広大地の計算式、広大地補正率です。
3要件を満たす場合には原則、正面路線価かける面積に広大地補正率を適用可能というものでした。
広大地補正率自体は面積に比例的に減額する構造となっており、最大減価率65%となっています。
反面、見直し案は従前と同様に規模格差率、広大地補正率に近い形で残されるようです。
しかしながら景気回復基調と富裕層課税強化の流れから65%もの減価はおそらく認められず、縮小される可能性が高いです。加えて先ほどお話した市場の実態に即した減価、すなわち形状、奥行に応じた補正率、減価率の考え方が新たに追加されるようです。
正面路線価 × 補正率 ※1 × 規模格差補正率 ※2 × 地積
※1 補正率 = 形状(不整形・奥行)を考慮した率?
※2 規模格差補正率 = 面積に応じた減価率?
広大地補正率が2つに分解されて補正率と規模格差補正率に・・・・・
補正率の内訳として形状、奥行に応じた補正が新たに追加される。
規模格差補正率はそのまま残るが、率の下限や面積上限の見直しも考えられます。
改正が具体的になれば、色々なところで、色々な議論が展開されると思います。
減価額が縮小される方向にあるとはいえ、広大地が相続税の納税額に大きく影響することは変わらないと思います。
この内容をふまえて広大地のみならず、土地の評価や時価というものについても興味を持っていただければ幸いです。
平成29年度広大地改正は・・・・「各土地の個性に応じて評価」がキーワード!
正面路線価 × 補正率 ※1 × 規模格差補正率 ※2 × 地積
※1 補 正 率 = 形状(不整形・奥行)を考慮した率へ
※2 規模格差補正率 = 面積に応じた減価率へ
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