不動産鑑定士の実態を調査してみました。その1-大臣登録業者と知事登録業者の違い
全国の不動産鑑定士の現状は?
先日、馴染みの深い同じ士業の税理士先生について、基礎控除の引き下げにより相続案件が都道府県ごとにどれぐらい増加したのかを調べてみましたが、なかなか興味深い分析ができました。
都道府県ごとの相続案件のみならず税理士事務所の数などを調査していると・・・
そういえば、不動産鑑定士の実態はどうなのだろうか?と興味が出てきました。
近年、我々不動産鑑定士は受験者数が激減しており、監督官庁である国土交通省も対外的なアピールに力を入れています。
そこで、今回は都道府県ごとに不動産鑑定士の実態について公表されている数値をもとに分析してみます。
じつはあまり知られていないかもしれませんが、不動産鑑定業者には2種類あります。
いわゆる大臣登録の業者と知事登録の業者です。
違いは複数の都道府県に事務所を構えていれば大臣登録、1つの都道府県であれば知事登録です。
一般的に大臣登録の業者には所属鑑定士も多く、案件数や種類も多いと予想されますが?
実態はどうなっているのでしょうか?
大臣登録業者と知事登録業者の割合は?
やはり本社以外の他県に支店を出す不動産鑑定士と本店のみの事務所で業務をするのでは、必要な売上やコストの面で大きく差がありますので、ここは大臣と知事の登録区分に着目してみましょう!
まず、公表されている国土交通省の資料によれば平成29年1月時点における大臣登録の業者と知事登録の業者の数と割合は以下のとおりです。
これはもう圧倒的に知事登録業者の方が多いです。
これは一般的なイメージにかなり近い割合・数字ではないでしょうか?
大臣登録業者は全体の7%で93%は知事登録業者です。
割合はイメージどおりなのですが、私が注目したいのは・・・・
登録区分に関わらず事務所の総数は・・・・
ほとんど変化がありません。
平成24年には事務所数の合計は3,182+242=3,424社です。
最新の平成28年では・・・・・3,146+243=3,389社で35社しか減少していません。
今、鑑定士業界で受験者数の大幅な減少が問題となっています。
制度改革により合格者は年間100人程度ですが・・・なんと事務所数は殆ど変化がないのです。
高齢化が著しい業界なのですが・・・事務所数はあまり減っていないですね・・・
実際に業界に携わる身としては少し肌感覚とズレている気がします・・・
顕著に知事登録の事務所が減少し、大臣登録業者が年々増加傾向にあるかと思っていましたが・・・
数字だけ見ると・・・・そうでもないみたいですね・・・
まぁ高齢となっても業務を続ける先生方が多いのでしょう?か?
事務所ごとの案件数は?
では、次に大臣登録と知事登録の1事業所当たりの評価件数について調査してみましょう。
当然大臣登録業者は1事業所に2名以上の不動産鑑定士が在籍するケースも多いので、評価案件数も多くなることは十分予想の範囲内なのですが、両者でどれぐらいの差があるのか気になるところです。
登録区分で比較した1事業所の年間平均件数直近5年は下記のとおりです。
なんと大臣登録業者は全体の10%にも満たないのですが・・・
評価件数は知事登録業者の約9倍となっています。
これは由々しき事態ですね・・・
ちなみに平成26年はいわゆる固定資産税の評価替え年度ですね。
不動産鑑定士業界全体の評価件数が3年に1度大きく増加するのは、この固定資産税の評価替え業務に起因しています。
ちなみに上記の件数は不動産鑑定(価格と賃料)、固定資産税評価、相続税評価を含む件数です。
不動産鑑定士の業務内容、内訳については後述します!
事務所ごとの平均報酬は?
登録区分に応じた事務所ごとの平均報酬はどうなっているのでしょうか?
直近5年間の数値は以下のとおりです。
大臣登録業者は知事登録業者の9倍の評価件数をこなしていました。
当然報酬も概ね9倍ですね!
でも・・・・逆にいえば・・・・
大臣登録業者と知事登録業者が受注する仕事の、報酬単価にはあまり差がない?ことになります。
これは意外でした!
もっと報酬単価に乖離があると思っていましたが・・・
そうでもないみたいですね・・・
不動産鑑定士の年間評価件数
では、登録区分が異なる不動産鑑定士について年間の評価件数を比べてみましょう!
やはり・・・・
大臣登録業者と知事登録業者の単価比にそれほど大きな差はありませんでしたが、年間の処理件数は・・・
大臣登録業者に所属する不動産鑑定士は知事登録業者の不動産鑑定士の2倍強の案件を受注、処理しています。
やはり大臣登録業者の営業力と処理能力の差が大きいのでしょうか?
大臣登録業者の不動産鑑定士は知事登録業者の不動産鑑定士より激務?なんでしょう・・・
登録区分で大きく異なる?不動産鑑定士の業務内容
上記までの分析で、大臣登録業者は知事登録業者より多くの案件をより効率的に受注・処理している実態が見えてきました。そこで今度は、登録区分で受注している業務の内容が異なるのか?業務内容の内訳を分析してみます!
不動産鑑定士の業務はまず以下のとおりに大別されます。
- 1 不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価業務
- 2 鑑定評価業務の隣接・周辺業務(基準に則らない業務)
【1】は分かりやすく直観的な表現をすれば「正式な不動産鑑定評価」です。
【2】については、大分簡単な表現ですが・・・いわゆる「価格などの調査業務」となります。
そういえば「簡易鑑定」なるものを未だに目にする機会があります。
このような書類は現在作成できないものですが、国土交通省のガイドラインすら守れない業者がいることも現実です。
同じ鑑定士として恥ずかしい限りです・・・
簡易に鑑定などできないはずですが・・・
上記の区分は大まかに鑑定評価基準に則っているか否かで大別されましたが、もう一つ大きな区分として・・・
- 価格を求める評価
- 賃料を求める評価
に大別されます。
従って・・・・
①鑑定評価に則って価格を求める場合と②賃料を求める場合
①隣接・周辺業務として価格を調査する場合と②賃料を調査する場合
というように大まかに区分できます!
業務内容の依頼目的
今度は依頼内容について見てみましょう!
依頼内容とは・・・ざっくりいうと「なぜ価格や賃料が知りたいのか?」という依頼の動機・原因です。
その内容は大まかに以下に分類されます。
- 1 売 買
- 2 担 保
- 3 補 償
- 4 証券化
- 5 財務諸表
そして、それぞれの依頼目的に対して価格を求める場合と賃料を求める場合、鑑定評価基準に則ったものか否かで分類されることになります。
登録区分の応じた業務内容の内訳
不動産鑑定評価と隣接・周辺業務の区分や価格・賃料を求めるケース、それから鑑定評価書などを必要とする理由、すなわち依頼目的についてザックリ理解したところで・・・
大臣登録業者と知事登録業者について業務内容の内訳、受注実態を調べてみましょう!
登録区分ごとに平成27年中のおける鑑定評価と隣接・周辺業務の受注件数は以下のとおりでした。
これを登録区分ごとの受注割合でみると・・・大臣登録業者と知事登録業者の業務内訳は下記のとおりです。
正直、登録区分ごとで業務内容の割合に顕著な差は見られません。
やはり不動産鑑定評価として不動産の価格を依頼されるケースが王道ですね。
これは今も昔も変わりません。
敢えて両社の違いに着目するならば大臣登録業者は隣接・周辺業務のほとんどを賃料が占めています。
おそらく価格については正式な不動産鑑定評価として受注しているのでは?と思います。
敢えて報酬が安くなる隣接・周辺業務では受注しないということでしょうか?
とはいえ、隣接・周辺業務はまだまだ全体に占める割合は登録区分を問わず5%程度にとどまっています。
鑑定評価(価格)で一番ニーズが高い依頼目的は
今度は、不動産鑑定士の業務の90%超を占める不動産鑑定評価(価格を求める場合)について掘り下げてみましょう!登録区分ごとの不動産鑑定評価(価格)の依頼目的の内訳は以下のとおりです!
依頼目的の内訳については大臣登録業者と知事登録業者の差異が顕著にみられます。
両社とも売買と担保目的の評価が中心でありますが、大臣登録業者は特に不動産の証券化のため鑑定評価を依頼されるケースが全体の約1/3弱もあり全体に占める割合も一番大きいのです。
他方、知事登録業者は証券化を依頼目的とする鑑定依頼は全体の2%と僅少です。
利害関係人多数の証券化の鑑定評価は何かあったときの責任の所在が重要です。
1事務所1鑑定士では何かあったときに困るのは目に見えています。
例えば、1人しかいない鑑定士が病気やお亡くなりになってしまった場合などです。
複数人の鑑定士が在籍し、企業体のゴーイングコンサーンが重要であることはいうまでもありません。
また経済的な責任を負担する能力も依頼者サイドでは重要視されるので証券化の鑑定は大臣登録業者へ依頼することは理にかなっています。
逆に損失補償業務に関連する鑑定評価依頼は知事登録業者が多い傾向にあります。
やはり地元の用地取得単価は地元の鑑定士へ依頼するケースが多いことが原因ではないでしょうか?
このような図式から・・・
大臣登録業者は医療業界で例えるなら大学病院のような感じで、知事登録業者は町のかかりつけの医院といった感じがしますね・・・
ただ、地方の基幹病院のような知事登録業者も多く存在します。
知事登録業者の方が二極化が進んでいるのではないでしょうか?
業界に身を置くものとしてはそんな感じがします。
登録区分の応じた業務報酬の内訳
依頼目的ごとに鑑定依頼報酬が占める割合を調べてみると・・・
これは依頼目的の内訳とあまり差異が見られません。
依頼目的ごとに単価が大幅に変わるといる傾向は低いのでしょうか?
地価公示、競売評価、課税のための公的評価は?
本件における公的評価とは、地価公示をはじめとする公共性の高い業務とします。
これらの業務についても登録区分に応じて分析してみます。
公的評価として、国がおこなう毎年1月1日時点の価格を公表する地価公示や都道府県による7月1日時点の地価調査のほか固定資産税評価、相続税評価などの課税目的の評価、裁判所の競売評価、その他の下請け業務や事例作成業務などはどのような割合なのでしょうか?
これは登録区分によってあまり顕著な違いは見られませんでした。
敢えて言うなら、知事登録業者の競売業務の割合が高いことでしょうか?
転勤が前提の大臣登録業者が競売評価業務を行うのは現実的には少ないのでしょう。
地元にしっかり根付いた知事業者が競売評価を担当するケースが多いということでしょうか?
グラフで見てみると、現状の鑑定業界の動きが分かりやすいです。
今回は全国の不動産鑑定士について、大臣登録業者と知事登録業者という切り口で分析してみましたが・・・
今度は都道府県ごと不動産鑑定士について、より細かい分析を行ってみます!
皆さんの予想どおり都市部ほど不動産鑑定士は多い傾向にあります。
一昔前は地方の不動産鑑定士は人数が少なくにもかかわらず、公的機関からの業務が多いため地方は有利と言われた時代もありましたが???・・・近年は地方の不動産鑑定士ほど大変だという話も聞きます???
果たしてどちらが本当なのでしょうか?
あいにく弊社は名古屋を拠点にしているので、都市部の要素と地方の要素が程よくミックスされた感じで・・・よく聞く都市部のお話や地方の意見のいづれもピンとこない場合が多いです・・・
ここは、やはり公表された客観的な数値をもとに分析し、自分が普段感じている感覚が正しいものなのか?実際に不動産鑑定業に携わる者としてデータと実感の乖離を調べてみたいです!
名古屋の愛知不動産鑑定所は時価評価をはじめ財産評価、広大地、地積規模の大きな宅地の評価など相続税の申告に欠かせない土地評価に関する作業を請け負っています。
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